空を飛べるなら
岩井 愛
ユキの家の近くの公園には.すばらしい「羽のオブジェ」がある。
ユキは.このオブジェを一目見たときから気に入ってしまった。光輝くオブジェは.今にも飛び出しそうで.まわりにちらばる星たちは.宇宙を感じさせるようであった。
ユキは.そのオブジェに出会ってから.何度も同じ夢を見た。あの羽に乗って空へ飛び立つ夢を…あの羽をがっしりつかんで.飛び立つ夢を。その夢を見ることがユキの一番の幸せだった。
明くる朝.ユキは乗れたらいいな.という思いを胸に.羽のオブジェに見とれていた。
すると
「この羽のオブジェ.こわされて他のオブジェになるそうよ。新しいのに変えるんだって」
それを聞いたユキは.家に帰りただ泣くだけだった。なにも出来ない自分がくやしい。ただそう思うばかりであった。
夜.ユキはただ泣いているばかりでは何も始まらないと思い.オブジェを助ける方法を考えた。しかし.まだ小学校3年生のユキは体も小さければ.力だって弱かった。一人では何にも出来ないのである。ユキはオブジェに会って考えようと思った。
真夜中の公園に着いたユキは.初めにサインペンで「このオブジェをこわさないで」と大きく書いた。次に星のひとつをそっとポケットにつめた。街灯と月の光の中でユキとオブジェは向き合い.見つめあっていた。
ふっと我にかえると.ユキは見たことも来たこともない草原に立っていた。わけがわからず回りを見まわしたら.「うっ」と息をのんだ。ユキの目の前に.今まで以上に光輝く羽のオブジェがあったのだ。
ユキはそっと羽にさわってみた。すると.今までの冷たいザラザラしたさわりごこちではなく.本物の羽の手ざわりなのだ。今まで感じたことのない.すばらしい手ざわりなのだ。
きめ細かな羽は.本物の鳥以上の手ざわりであった。
「乗ってください」
どこからともなく聞こえて来たその声は.美しくすきとおっていた。押さえきれない思いを胸にひめて.ユキは羽の上に乗った。
羽は空に向かって飛び出した。
それは夢と同じ。いや.それ以上の感覚であった。その景色は美しく.絵に描いたようであった。気がつくとユキのポケットからは.光があふれ出ていた。その光を手にとり.夜の空にばらまいた。ユキたちを包み込んだ光は星となり.空高く宇宙に向かって飛んでいった。
羽のオブジェのあった場所には.「このオブジェをこわさないで」という文字だけが残っていた。
6年国語の授業「物語を作ろう」からの創作